【書き仕事】『アステイオン』86号にミラン・クンデラの対談記事の拙訳を掲載していただけました

すでに二月近く経ってしまいましたが、宣伝です。(我ながら、宣伝下手です……。)



ミラン・クンデラとチェコ放送で文芸番組のディレクターを務めていらしたトマーシュ・セドラーチェクさん(経済学者のトマーシュ・セドラーチェクさんとは、まったくの別人です)との対談記事「にわかに信じ難い運命」をわたしがチェコ語から日本語へ訳したものを、『アステイオン』86号に掲載していただきました。昨今の出版事情に鑑みると、単行本への収録ということは絶望的でしょうから、クンデラの小説や現代文学がお好きな方には、今回の『アステイオン』を購入されることを強く、強くおすすめ致します。政治学者の池内恵さんも書かれているように、今回の『アステイオン』は採算度外視の実に濃い号に仕上がっています。是非とも買ってください。これだけでも1000円を出すのに十分過ぎる価値があります。

件の対談記事は、ブルノにあるアトランティス社が2004年に刊行した『私のヤナーチェク』という本のトリを飾るものとして出版されたものです。実は、この本がチェコで刊行された直後に入手して対談記事の全訳を作成し、いろいろな出版社に持ち込んでもたものの、なかなか色良い返事がいただけずにそのままにしてしまっておりました。紆余曲折の末に『アステイオン』に掲載していただけて、本当に良かったです(紆余曲折の具体的な内容については、いろいろと差し障りのある話が多いので、公の場では今後とも一切触れないつもりです)。

『アステイオン』の惹句にも記したことではありますが、この対談の内容は大まかには『裏切られた遺言』での議論をチェコ共和国在住の一般の聴取者向けに分かりやすく要約したものだとも言えます。とは言え、それだけの意義にはとどまりません。『裏切られた遺言』においてかつて開陳していたマックス・ブロートに対する厳しい(あるいは、苛烈と言っても過言ではない)評価をよりポジティヴなものに改めています。クンデラがブロートの評価を転換していたことは、少なくとも日本語圏の読書界ではまだあまり知られていないことかと思います(この点についてだけでも、日本語に翻訳し、紹介する意義があったと考えております)。さらに言うと、クンデラは、ヤナーチェクについて語ることを通して、政治的、経済的、文化的な観点から「マイナー」あるいは「周縁」という扱いを「メインストリーム」に属している者たちから受け続けて来た地域や民族集団を出自とする芸術が背負わされてきた運命についての考察を行っています。きわめて普遍的なものがありますし、現代の日本で生きている人間にとっては彼の問題意識は実に痛切なものとして響くはずであるにもかかわらず、クンデラが提起している問題が「問題」として意識されることがきわめてまれである——というところが、この国の多数派を占めているであろう「名誉白人」の病の深さを体現しているように思えてなりません。

それはともかく、この対談の一読者としての個人的な感想に過ぎないのですが、昔から「反叙情」を唱え続けてきたはずなのに、セドラーチェク氏と言葉をやり取りしているうちに、クンデラの言葉からはこの上なく叙情的な香りが立ち上がっています。その辺もまた、『裏切られた遺言』での硬質な文章とは違うのかもしれません。

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